2013/04/27

W

ある朝、ポイントホープから電話があった。
「Wのこと、何か聞いたか?」
「いや、何も聞いてないけど」
「昨日の夜、銃で自殺未遂をして病院に運ばれたんだよ」
「え? 本当に?」
「今、アンカレジの病院に入院してる。集中治療室に入っていて、危険な状態らしい」
「どうしたんだろう?」
「よくわからない」
「Wは、今年もオレたちと一緒にクジラの猟に出るんじゃなかったのか?」
彼は昨年から、我々のクルーとして一緒に猟に出ていた。
「うん、そのはずだった。そのはずだったんだよ・・・」

 Wに何があったのかはわからない。
数年前までは、アンカレジとポイントホープとの間を往復しながら、あまり良いとは言えない仕事をしていたようだった。
ガールフレンドとの間に子供が出来てからは、ポイントホープに戻り、定職について真面目に働きながら、遅ればせながら猟の手法を色々覚えて始めていた。
昨年は一緒にトンプソン岬まで卵を採りに行き、彼も崖を降りていた。

1週間後、再び連絡があった。
状況はよくわからないようだが、Wは銃で自分の顔を狙ったらしい。
これまでに何度も手術を繰り返し、翌日には、あごの手術が控えているとのこと。

 Wにどんな悩みがあったのか、どんな問題があったのか、まったくわからない。だけど、死を選ばなくても良いじゃないか。
昨年、自分がポイントホープを去る日の午前中、Wはわざわざ電話をかけて来て、翌年の再開を約束したのに、集中治療室に入っていたのでは、会えないじゃないか。
また一緒に猟に出られるのを楽しみにしていたのに。また、卵を採りに行こうと思っていたのに。

数年前「ここ数年自殺者がなくて嬉しい」などと話をした数日後に事件があった。死んだ人には申し訳ないが、町の空気がしばらく殺伐としていたような気がする。

小さなエスキモーの町では、時々こう言ったことが起きる。たちが悪いのは、手近に銃がたくさんあるので、簡単に死んでしまえるということ。
絶望的な状況になり、発作的に引き金を引いたら、それでおしまい。

小さなエスキモーの町。
一見平和で、みんな自由に特に悩みもなく生きているようだが、何かしらの闇を抱えている人も多い。
アルコールやクスリに走る人が少なくないのは、抱えている闇から逃れるためだろうか。

お願いだから、引き金を引く前に、誰かに話をして欲しい。みんな親身になって、相談に乗ってくれる。周りにいるのは、そんな人たちばかりなんだから。

W、今年は無理かもしれないけれど、来年は一緒に猟に出られることを祈っている。

2013/04/01

本の紹介

日頃から当ブログ「カイジュウノツカマエカタ」をご覧になっている皆様、いつもご贔屓いただき、本当に有り難うございます。
誠に恐縮ですが、本日は宣伝です。

古くからの友人で、長年営業畑を歩き続けてきた岩内真実(いわうちまさみ)という男がおります。
彼は以前「エスキモーが氷を買うとき」という営業の極意のような本を出していて、職場では、営業の神様のような存在となっています(彼は一部上場企業の営業部に所属しています)。

その彼が再び営業の真髄を描いた、新たな本を出すことになりました。タイトルは
「エスキモーに炊飯器を売る」

会社の都合で自分のウェブサイトを持てないため、休眠中の自分のサイトを宣伝用に貸し出すことにしました。
 http://homepage1.nifty.com/arctic(現在は本編が通常営業中)
こっそり見たい方はこちら。
http://homepage1.nifty.com/arctic/20130401.html
詳細はそちらをご覧ください。
営業職の方ではなくても、読み物としても、とても面白い本になっています。

解説
上記文章は、すべてエイプリルフールのためのウソです。
「岩内真実(いわないまさみ)」読み方を変えてみてください「言わない真実」すなわち、ウソです。
「エスキモーが氷を買うとき」 なんて本も出ておりません。
当ブログ内でも書いておりますが、エスキモーの家に炊飯器は珍しいものではありません。岩内という男の営業成果によるものではございません。
炊いた米や炊飯器のことも「マサミ」とは呼ばれておりません。すべてウソ。
「民明書房」これは知っている人は知っていると思いますが、宮下あきらの「魁!!男塾」を読んでいた人なら、知っていると思いますが、架空の出版社です。

みなさん、ウソついてごめんなさい。