2013/06/29

カッパのもと

ウグルック(アゴヒゲアザラシ)を解体すると、でろでろと長い腸、イガロックが出て来る。
その腸を切ると、うねうねと平らで細長い黄色っぽい寄生虫が大量に出て来る。勝手にサナダムシのサニーと名付けているが、実際にサナダムシの仲間なのかはよくわからない。
血液中からも大量の白くて細長い寄生虫が出て来る。これはアニサキスの仲間だと、某機関の専門家に同定してもらったことがある。なのでこちらはアニサキスのアニーと呼んでいる。

さて。その腸(主に小腸部分)。
そんなに大量に食べないので、ほとんど捨ててしまう。
食べる場合、ぶつ切りにして茹でる方法が一般的。
腸の外壁を、脂肪層の上(まな板代わり)で細かく刻んだ「カーク」は、ちょっと臭い、こりこりとした歯触りの食べ物。「エスキモーのサワークラウト」と呼ぶことがある。歯触りがサワークラウトに似ていないことも無い。

そんな腸なので、好きなだけ貰って来て、好きなように加工が出来る。
解体現場では、腸を適当な長さに切って、適当な大きさの小石を一粒腸に入れて、中身(消化中の食べ物と寄生虫)を、小石とともにしごき出す。
水に浸けたまま冷所に置いておけば、すぐに作業しなくても大丈夫。万一食べたくなったら、ぶつ切りにして、よく洗ってから茹でれば良い。

空気を入れて乾燥中
手に匂いが付くとなかなか取れないので、ゴム手袋をはめ、腸の外壁を削りとるように、スプーンで剥がしていく。こうすると外側の血管なども奇麗に取れていく。
外壁が終わったら、腸を裏返す。長いと裏返すのは大変なので、適当な長さに切っておく。
外壁同様、内壁もスプーンでこそげ落とすが、外壁ほど大量の付着物は無いので、外壁ほど時間はかからない。
内壁、外壁ともに奇麗にしたら、奇麗な水でよく荒い、腸の片方の端を紐で縛る。
そして反対側からおもむろに息を吹き
込んで、糸で縛ると、細長い風船の出来上がり。
よく洗ってもやっぱり臭いので、実は空気入れを使って膨らませているのだが。

数日天日に干せば、からからに乾いた、油紙製の風船のような物が出来上がる。
一度乾かしてしまうと、結構丈夫で、手でくしゃくしゃにしても、紙のように破れることはない。
昔はこれを切り開いて、縫い合わせ、 雨具を作っていたそうだ。何しろ腸なので、防水性は高い。

太鼓の模型と汚い手袋
今はカッパを作る必要も無いので、エ
スキモー唯一の楽器である太鼓の模型を作ったり、子供がファッションショー(様々な行事のときにエスキモーの衣装のコンテストが催される)に出るための衣装を作ったり。

何度か太鼓の模型を作ったことがある。 一部を除いて、行方不明になってしまったので、また作ろう。
余ったら何か小物入れでも作るか(臭いけど)。

北風

地図を見ればわかる通り、ポイントホープは北極海に突出した岬の先端にあり、三方を海に囲まれている。
東側も海岸沿いにラグーン(潟湖)が発達しているため、かろうじて陸地とつながっているような感じである(言うまでもなく、下の地図は上が北)。


大きな地図で見る

4月から5月にかけて、まだ海の凍っているこの時期、クジラの猟は町の南側の海面(氷上)が猟場となる(北側は水深が浅いため、クジラはやって来ず、猟に適さないとのこと)。
南の海面は、北風が吹かないと開かないために、ひたすら北風を待ち続ける。

「おまえ、あの歌、歌ってるか?」
「何? 忘れちゃったよ」
「ぶろー、ぶろーぶろーぶろー、ぶろー、のーすうぃんど ぶろー」
我らがキャプテンが調子っぱずれの歌声でオリジナルの「北風を呼ぶ歌」を歌う。
もちろん北風は吹かない。

時々、どんなに強い北風が吹き続けても、海が開かないことがある。そうなると、いつまでたっても猟に出られず、待機の日々が続く。

今年(2013年)も4月上旬に一度開いた開水面は、南風で閉じてしまい、4月下旬まで開くことが無かった。
4月の最後に数日だけ開いた開水面は、3日間で5頭のクジラをポイントホープにもたらしたが、再び南風が吹き始め、またも開水面は閉じてしまった。
 その後、5月下旬まで、どんなに強い北風が吹こうとも氷は開くことはなく、次第に上がる気温とともに、どんどん薄くなっていった。

 5月下旬、ようやく氷が開いた。あまりに薄くて危険かと思われた氷上のトレイルも、水溜りだらけながらも、かろうじて使用できる状態だったため、一部のクルーが出猟した。
6月1日、クジラが捕れた。
しかし、薄い氷に重たいクジラ。そして吹き始めた強い北風。あまりに危険なため、結局クジラのすべてを回収することは出来なかった。

6月に入り、クジラ猟が一段落するとウグルック(アゴヒゲアザラシ)の猟期となる。
天気の良い日には、氷の上でアザラシが昼寝をしている姿を見ることも多くなる。
そして強い風が数日吹き続けると、岸近くに張り付いていた氷が離れ、海岸からボートを出せるようになる(ウグルック猟では北側の水面も利用する)。

「北風の日に獲物はいないんだよ」
そう言い続けて来た。去年までは。

海流の影響もあり、一度砕けた氷は、強い北風が吹こうとも、南の海岸近くに広い海面を作ることがある。
海面の様子を確認に行っていた家主が帰って来た。
「ボート出すぞ。他のボートがウグルック(アゴヒゲアザラシ)」捕ってる」
「北風だぜ?」
「でもウグルックがいるらしい」

我が家の風見(100円の鯉のぼり)
逆さまなのはご愛嬌
そして結果は豊猟。
10日ほどの短い猟期の間に数日出猟したが、ほとんど北風が吹いていた。時々北風が止み無風状態の時もあったが、基本的に北風。

「天気予報によると、明後日から南風だって」
「南風だと何も捕れなかったりしてね」

そして吹き出した南風。あまりに強くて猟には出られない。
そして獲物もいない。
ウグルックの猟期はひとまず終了したようだ。

2013/06/08

The Arctic Sounder

常日頃、良いことをしているわけでもなく、かといって特に悪いことをしているわけでもなく(と自分で思っているだけかもしれない)、ただ他の人とはちょっと違う日常を過ごしているだけなのですが、長く変わったことを続けていると、時には注目してくれる人もいるようです。

主にアラスカの北部の町の情報を扱った「The Arctic Sounder」という週刊の地方新聞があります。
先日、Facebookにクジラの写真を載せたところ(ポイントホープで捕れた今年6頭目のクジラの写真)、どこをどうたどって来たのか、その新聞社から写真を使わせて欲しいと連絡がありました。
承諾するとともに、自分は日本人で、ポイントホープに20年も通っているんだ、と伝えたところ、そいつは面白いと、記事にされてしまった次第。
それほど難しいことは書いていないので、簡単に読めると思います(相手に自分のことを伝えるのに、難しいことを英語で書けなかったので、こうなったのかと)。
 
ウェブ版の記事は以下
http://www.thearcticsounder.com/article/1323japanese_visitor_finds_second_home

期間限定ですが、新聞自体をPDFでダウンロードできます。
http://www.thearcticsounder.com/pdf/as.pdf
※このページは恐らく2013年6月12日までのはず。
 それ以降は、次の号の記事になってしまいますので、どうしても読んでみたいという方は、ご相談ください。

家族(居候先や日本の)や友達が喜んでくれたことが、何よりも嬉しかったです。

2013/06/06

鳥の解体方法(閲覧注意)

2021年5月、修正済み(太字部分)。

春から夏にかけてがガンやカモの猟期。
特に5月中旬くらいは、ハクガンをはじめとするガンの猟期である。
捕れたてをすぐに捌くこともあれば、丸のまま冷凍庫に放り込んでおいて、必要なときに解凍して捌くこともある。

鳥インフルエンザが猛威をふるっていた頃は「鳥を扱う際は、ゴム手袋をして、ものを食べたりタバコを吸いながらの解体は控えましょう」というパンフレットが配られていたが、特に誰も気にすることなく、普段通り解体していた。

「ガンを貰ったから解体しといてくれない?」
家で一番ヒマにしているのは自分なので、必ず声がかかる。
そして先日は(2021年)は、1日で47羽もハクガン(この辺りでは「カゴック」と呼ぶ)を捕ってきて、家主が仕事なもんだから、朝から晩まで解体をつづけていた。

以前は、鳥の解体と言えば、基本的には羽根をむしることから始まると思っていた。
知っている人は知っている通り、死んで冷たくなってしまった鳥から羽根をむしり取るのはかなり大変である(熱湯に浸けるなど方法はある)。大量に処理する必要のあるこの付近では、なので鳥の解体は、皮剥ぎから始まる。

今回は備忘録も兼ねて、鳥の解体方法に付いて。

用意するものは、まな板代わりの段ボール、ナイフ、水、ゴミ袋、ジップロック、ペーパータオルなど。

背中に切り込みを入れて少し開いたところ
これはネガリック(ハイイロガンの仲間)
肉のほとんどついていない羽の先の方や、脚の先はあらかじめ切り落としておいても良いただし、地域によっては、脚を食べるところもあるそうなので、その地域の風習に従う。
背中側、背骨腹側に指を当てると、胸骨の硬い部分に触れるので、胸骨に沿って数センチ、指が数本1本入る程度の切れ目を皮にいれる。そこを手がかりに背中側腹側から皮を剥ぎ始める。

(追記:2021年、大量にハクガンを処理した結果、腹側からの方が楽だと判明)

羽根の付根、足の付根、首、頭と剥いで行く正中線に沿って、皮と身の間に指を突っ込んで腹側、首側へと剥いでいく。頭部から尻まで、切れ目ができたら、首、頭の皮を剥がす。(順番は適当)。頭を食べない場合は、切り落としてしまっても良いが、脳みそは意外と美味い。
腹側から、胴体の皮はある程度皮を剥がしておく。そして背中を上にして、首の皮を手掛かりに、後ろに皮を引くようにして、羽根部分へ。
羽根に残った羽毛を握り、袖を脱がすように羽根の皮を剥ぐ。
次いで、ズボンを脱がすように足の皮を剥ぐ。

片足を脱がされた状態
胸の皮を剥がすと羽にたどり着くので、羽に残った羽毛を握り、方袖ずつ脱がすがごとく、引き剥がす。

しっぽの先、いわゆる「ぼんじり」の部分は、羽毛とともに身体に残る。どうしても食べたければ丁寧に羽毛を取り除いて確保しても良いが、面倒くさいので、普通はそのまま切り捨ててしまう。

丸裸

ちょうど、背中にジッパーの付いた着ぐるみを脱がすような感じで皮を剥ぐ。上手に剥ぐことができれば、皮はすべて繋がったままなので、中に詰め物をすれば剥製のようになる(はず)。


鳥は皮の部分が一番美味い、と思っている人も多いと思う。自分もその一人だが、羽毛をむしる手間を考えると、皮を剥いてしまった方が手っ取り早い。
剥いだ皮には、美味しそうな脂肪層がたっぷり付いているのがとても残念なのだが、内臓脂肪も多いので、気にすることもないと思う

 ガンカモ類を捕まえる際は散弾銃を使用する。銃で撃たれているため、ほとんどの場合、どこかの骨が折れている。鳥の骨は非常に鋭いので、皮を剥がす際、この骨でケガをしないように気をつける。
気をつけつつも時々ケガをし、そして鳥インフルエンザのことが頭をよぎるのだった。
(2021年、鳥インフルのことはすっかり忘れていた。そして手を洗うのが億劫でゴム手袋使用)

皮の剥けた鳥の首の根元にぐるりとナイフを入れ、首を切り取る(折り取る)。頭の付け根も同様に。首の肉は少ないが、出汁が出るので、真ん中あたりで切って半分にする。
首のなくなった鳥を仰向けにして、
腹側から、脚を外側へ思いきり開き、脚を胴体から離れさせる。脚の付根付近にナイフを入れて、行くと、意外とあっけなく腿肉の付いた足が外れる。ニワトリと比べると腿肉は貧弱に思えるが、ニワトリは歩く鳥、ここで解体しているのは飛ぶ鳥。
羽根の付け根付近にナイフを入れる。関節に沿って肉を切っていくと、羽根が外れる。
翼の付根付近を背中側から見る(指で触る)と肩甲骨が見える確認できる。背骨と肩甲骨の間にナイフを入れて分離させる。裏返して腹側から羽の付根付近にナイフを入れて行くと、関節が外れ、羽の骨が外れる。
脚も羽も関節に沿って切れば、力はいらない。

指が入っている部分から肋骨を分離

頭と胴体だけになった鳥の肩甲骨の真下あたりに人差し指を突っ込み(右の写真)、 指を鍵型にして尻の方向へぐいぐい引いて行くと、肋骨の関節が外れる。ちょっと力はいるが、ナイフはいらない。
左右ともに肋骨の関節をはずし、腹側を押さえて首根っこを引き上げると、腹部と内臓の付いた背部に別れるので、内臓を外すし、首を切る

腹部には胸肉がたっぷりと付いている。まず、肩甲骨を関節で折り、肉を回収。ついで、いわゆるウィッシュボーンと呼ばれる部位の肉を胸肉と切り離す。阻止関節から折りとる。
ので、肋骨側からナイフを入れて、次いで、肋骨と肉の隙間から指を突っ込んで、剥がしていく。そして胸骨についている部分を外側から切り取ると、大きな胸肉がとれる。骨に沿って剥がしてく
そして胸骨の根元付近に残った、いわゆる「ささみ」も、指を使って剥がす。

内臓を外した背中側は、尻骨付近に大量の脂肪がついているため、肋骨が終わるあたりに上部からナイフを入れて折り、ほとんど肉のない前半部分は破棄。

上から砂肝、心臓、腸
内臓は砂肝、心臓、腸を食べる。メスの場合、卵巣に成長途中の卵がある場合もあり、それも食べる。肝臓など他の臓器も食べられるとは思うが、試したことはない

内臓の周りには黄色い脂肪がたっぷりとついている場合がある。人間だと内臓脂肪は毛嫌いされるが、スープに入れると美味しいので、捨てずに取っておく。
右の写真、腸とともに写っている黄色いものが脂肪。
腸は中身を出して奇麗にしておく。あまりに血まみれ、腸の中身が黒かったりした場合は、腸を破棄することもある。

砂肝の断面

ちなみに砂肝の中は、名前の通り砂だらけ。未消化の植物が入っていることも。
砂を奇麗に落とし、内壁の革質化した分を剥がす。

不思議なことに、これだけ砂がたくさん入っていても、腸には全く砂は入っていない(多少は入るのかもしれないが)。

さて、一通り解体の終わった段ボールは、血まみれでヌトヌトしている。ペーパータオルで拭いてもよいのだが、キリがないし、1羽ごとに段ボールを交換するのも、これまた大変。そこで編み出した技が、剥いだ皮で段ボールを拭く、というもの。
ハクガンの白く美しい羽毛のついた皮で、血まみれの段ボールを拭くのはちょっと気が引けたものの、そもそもこの皮、もうゴミでしかないので、使ってあげた方が、よいのかと。

 切り取った肉や内臓は、用意した水で洗い、ジップロックに入れて保存するか、そのままぶつ切りにして、鍋で煮込んでスープに。
弾丸の当たった周辺の血で真っ黒になった部分は「オガーク」と呼ばれ、まずいらしく、食べずに捨ててしまう。

味付けは塩のみ。他の具材はタマネギ程度で、とろみ付けに米やマカロニなどを入れる。
これだけで非常に味の濃いスープの出来上がり。
このスープに、醤油、ニンニク、生姜をちょっと入れると、ラーメンにも合いそうなスープが出来上がる。これに「讃岐うどん」などの乾麺を茹でたものを入れても、最高に美味しい。

2013/06/03

新しい長靴を履いて。。

Amazon.comに注文しておいた新しいブーツが届いた。氷点下数十度まで耐えられる防寒ゴム長だ。これで多少の水たまりも、湿った雪の中も気にせずに入って行ける。
特に今年は、5月中旬に例年に無い大雪が降り、ツンドラは至る所に残雪が残っていた。しかしここ数日、気温が上がり始め、その雪も溶け、時々雨も降るようになって来ているので、この長靴が活躍するだろう。

気温が上がって来たので、外の物置に置いてあったベルーガ(シロイルカ)の尾びれと胸びれが融け始めて来た。これは6月に行われるクジラ祭りで町の人たちに振る舞うもの。傷んでしまっては振る舞えないので、1970年代まで居住地のあった「オールドタウンサイト」付近にある、スイガロックというツンドラに穴を掘った天然の冷凍庫へ放り込みに行くことに。
さっそく、届いたばかりの新しい長靴を履き、こちらへ来る直前に日本で買った、ほとんど履いていない新しいスキーパンツ(防寒用オーバーパンツ)を履いてホンダで出かける。
途中、深い雪にスタックしながらも、どうにかスィガロックにたどり着く。
新しい長靴は全く冷たさを感じず、湿雪にも強く、快適そのもの。

スィガロックは永久凍土の地面に穴を掘り、保管庫にしたもの。冷凍庫が無かった昔は、とても活躍していたことだろう。
今は冷凍庫に入りきらないクジラの肉やマクタックなどを一時的に保管しておいたり、この町で「アギロック」と呼ぶクジラの尾の身の部分を秋まで入れておいて熟成させるために使用している。

※スィガロックに一時的に保管しておいたマクタックや肉は、熟成されて味が良くなっているので、多くの人、特にお年寄りに好まれている。

スィガロックにたどり着き、蓋を開けると、先週来たときには無かったものがたくさん入っている。
覗き込みながら唖然とする。
「いつもこの時期はこんなこと無いのにな」
「うん、初めて見たよ、こんなの」
スィガロックの中は、深さの半分程度まで水で満たされていた。
中に詰められた肉などはすべて水の下。
「ベルーガのしっぽを放り込むだけの簡単な仕事だと思ったのになあ...」
そう言いながらも紐付きのバケツで水を汲み出す準備を始める。

ある程度水を汲み出したが、まだ肉の隙間にはかなり大量の水が入っている。
「シンゴ、お前中に入って水をバケツに入れられるか?」
「んー、たぶんね」
この時期、マクタックや肉がたくさん入っているので、大きな人はスィガロックの中に入りにくい。周囲を見回すと、自分が一番小さいのだ(どんな場合も、大体自分が一番小さい)。

永久凍土とはいえ、1年中地表面まで凍っているわけではなく、暖かくなれば地表面近くの凍土は融けて来る。特に夏は結構深くまで融けるようだ(なので植物も生育できる)。
融けた氷は水となってスィガロックの中へと流れ込んで来るのは自然なこと。

スィガロックの中に入る。中はあちこち凍り付いていて、霜も付いているものの、1ヶ所からしずくが垂れている箇所がある。
スィガロックの中。クジラの骨で骨組みが組まれている。
骨の表面には霜が付いているが、写真の下の方には水。
「これだね、水のもとは。ここのところ暖かかったら、地表近くの氷が融けて来たんだろうね」

脂まみれの小さなバケツを使って、油の浮いた水を紐付きの大きなバケツに入れる。
脂肪層のついたマクタックや、脂肪でくるんで熟成中のアギロックなどを入れてあるので、スィガロックの中は脂まみれ。そして古くなって粘ついた脂も多い。
中へ入るとわかっていたら、古いブーツを履いてきたのに。古いスキーパンツを履いてきたのに。でも後の祭り。
ジャケットは古着屋で買ってからだいぶ年月の経った年季の入ったものなので、これだけはあきらめが付く。


何杯くらいくみ出したろう、ようやく底が見えて来た。
「明日もまた見に来なくちゃいけないね」
ジャケット、スキーパンツ、長靴ともに粘つく脂でぎとぎとに。特に新しい長靴は脂とスィガロック周りの枯れ草が張り付いて、ひどいことになっている。
周りに残った雪で脂をこすり落としてみたが、気休めにしかならない。

這い出て来たところ。
結局翌日も脂で汚れた長靴とスキーパンツ、ジャケットを着て水汲みに。
再びスィガロックの中に入り込んで、5ガロンのバケツで16杯分。バケツ8割で汲み上げていたとして、おおよそ250リットルほど。恐らく初日はその倍、500リットルくらいは汲み出しただろう。

日増しに水の量は減りつつあるが、気温も日増しに上昇している。
スィガロックへ潜る日々はしばらく続きそうだ。