2014/01/22

クジラの切り方

ポイントホープの場合、クジラに最初に銛を打ったクジラ組のキャプテンにそのクジラの所有権があり、解体から分配まで、そのキャプテンの指示に従うことになる。
ただし、分配方法にはポイントホープに伝わる手法があるため、好き勝手に分配するわけにはいかない。

銛が脊椎にあたれば、一発でクジラが死ぬが、滅多にそういうことはないので、付近にいた他のクジラ組が続けて銛を打つことになる。
たとえば、付近にいたクジラ組3組の銛だけでクジラが絶命したとする。4組目が現場にたどり着いたとき、クジラは既にロープに縛られ海に浮いている。4組目は、ボートのパドルでクジラに触れる。そのことで4番目に銛を打ったと見なされる。以下、5番、6番目も同様である。

クジラを曳航中
クジラを曵いて氷の際まで。かつては手漕ぎのウミァックで延々とパドルを動かし続けていたが、近年はスピードボート(モーターボート)を使うことが多くなり、肉体的には楽になって来ている。
それでもクジラを氷の際まで運んで来るのに、何艘ものボートで数時間かかることも多い。

各部の名称
クジラに印を付ける
右のピンク色の部分はマクタックを切り取った場所
氷の際まで運んで来たクジラは、水中にある状態で、尾びれ「アヴァラック」を切り取る。その後、切り分ける目印にするため、ロープとナイフを使い、クジラの胴体を回転させながら印を付けていく。
銛を打った順番で、貰える部位「ニギャック(分け前)」が決まっている。
例えば3番銛は「カー(下顎の部分)」5番銛は「スィルヴィック(腹部)」など(右図参照)。
クジラが氷の際へ曵き寄せられ、ある程度印が付けられると、胴体の「ウアティ」と呼ばれる部位から表皮(マクタック)の一部が切り取られ、その場で茹でられて、作業している人たちに振る舞われる。
そして滑車とロープを使ってクジラ氷上へ引き上げ、クジラに付けられた印に従って解体を勧めていく(引き上げ、解体についてはそのうち)。

2013年6月、50フィート(15m)ほどの巨大なクジラが捕れた。我々のクジラ組は、5番目にクジラに触れたので(クジラにたどり着いたとき、既に絶命し曳航がはじまっていた)、我々のニギャックはスィルヴィックとなった。
猟期も終わりに近い6月、氷は薄く、クジラを引き上げるたびに、クジラの重みで薄い氷が割れ、解体は難航した。
マクタックを剥ぎ取り、クジラを少し軽くしてから引き上げを試みたが、相変わらず氷は割れ続ける。
次第にクジラ周辺の氷は危険な状態になり、結局一部のマクタックと肉しか回収できなかった。そして我々のニギャックは最後まで切り取ることはできなかった。
 そんな状態でも、一番銛を打ったクジラ組のキャプテンから、町の各戸、猟に参加したクジラ組のキャプテンにマクタックと肉が配布された。
キャプテンに配られたマクタックと肉は、さらにそれぞれのクルーへと分配された。

ポイントホープでクジラが捕れれば、小さいクジラであっても、何らかの理由で肉が全て回収できなくても、町中の人たちがマクタック、肉を得られるようになっている。


2014/01/01

新年のご挨拶とお知らせ

明けましておめでとうございます。

昨年後半から年末にかけて、何かとやることが多くなり、長いこと更新が滞っておりました。今年はなるべくネタを見付けて、更新するよう努力しますので、今後ともよろしくお願いいたします。

さて、2月から「海旅一座」という芸人の巡業が始まります。
「海から賜ったもの」というテーマのもと、今回の巡業では、長崎、佐世保に始まって、九州、中国地方を回ります。
私は時間の都合で、長崎、佐世保巡業にしか参加できませんが「海を喰らう」として、クジラの猟、捕ったクジラの食べ方などについて話をする予定です。
その道のプロフェッショナルによる、滅多に聞くことのできない、海旅の話を聞くことができると思います。

皆様のご参加をお待ちしております。



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■2014年 長崎~福岡~島根~山口の新春海旅芸人巡業
「海旅一座 長崎旗揚げ夜話会」
テーマ「海から賜ったもの」
話士

洲澤育範(皮舟大工) 「時を行く舟」
高沢進吾(エスキモー猟師見習い) 「海を喰らう」
鈴木克章(シーカヤック海洋冒険家) 「海気の向こう側」
石川仁(葦船海洋冒険家) 「草の船で海を舞う」

■日時 2014年2月1日(土)   開場 17:00 開演 17:30~20:00
■参加費 ¥1,500(飲み物付き) 小学生以下は無料
■場所「長崎シビックホール」 住所 長崎市常盤町1-1 メットライフアリコビル1F 電話 095-822-8161 アクセス 路面電車「市民病院駅」下車徒歩3分 駐車場 近くにコインパーキングあり
■担当・問合せ申込先  石川仁 090-9345-5372 
■講演内容
海旅のスペシャリストたちが、長崎の地より海の手紙をお渡しいたします。
○洲澤育範(皮舟大工) 

「時を行く舟」
 海から生まれた命は海へ還りたい、海を旅したい。われわれの血の奥底に眠る海洋ほ乳動物の記憶を呼び覚ます道具、それが革舟・カヤック、それが皮舟・バークカヌー。 http://elcoyote1990.com/
○高沢進吾(エスキモー猟師見習い) 

「海を喰らう」
アラスカ北極圏イヌピアック・エスキモーの町「ポイントホープ」に通い始めで20余年。クジラ猟に参加すること10数年。時代とともに変化し続ける文化と、今に続く伝統を吸収したいと今も通い続けている。

 http://homepage1.nifty.com/arctic/
○鈴木克章(シーカヤック海洋冒険家) 

「海気の向こう側」
手漕ぎ舟日本一周の海旅のお話。一人ぼっちで海を漕ぎ続けた25ヶ月間。 左足はどこまでも連続した野生へ。右足は現代日本社会へ。 軸なる私はその様な環境の中で、何を思い何を感じたのか。そして何を伝えたいのか。

 http://hirumanonagareboshi.hamazo.tv/
○石川仁(葦船海洋冒険家)
 
「草の船で海を舞う」
 人類が作り出した最初の乗り物とされる葦船(あしぶね)で海を渡る。まるでタイムマシンのように数千年前まで感覚が戻されていく海旅。そこにはむき出しの自然と戦い、そして抱き合うドラマがあった。 http://kamuna.net