2017/05/14

働け

猟に出て間もなく、1頭目の大きなクジラが捕れて徹夜決定。そして朝方、2頭目も捕れ、いったいいつ帰れるのか全く見当もつかなくなる。
霧の中、汚れ作業用の服に着替えに家に帰ったら、メガネが凍りついて前が見えなくなる。
こんな状態なので裸眼の方がよく見える。よく見えるけれどよく見えないので、スピードを出しているとトレイルの穴に落ちそうで怖い。しかしある程度速度を出していないと、氷の山は登れないのでしょうがない。
ようやく1頭目が引き上がり、2頭目に取り掛かる。さすがにみんな疲れていて、引き上げには、いつもより確実に時間がかかっている。

引き上げ終わると、解体が始まり、着ているものは、あっという間に血まみれ脂まみれになる。
解体が進み内臓が開かれると、辺りに異臭が広がる。その横で、息を切らせながら、眠くてクラクラしながら大きなナイフを振り回しいてる。
途中三十分くらい昼寝したら、かなり楽にはなった。それでも身体は重い。
解体が終わりに近づく。血のたまった池の中、不安定な脂肪の塊の上、ふわふわと拠り所のない内臓の上に立ち、最後のマクタックや肉を切り出していく。

家に帰りついたのは結局深夜12時。一体何時間作業してたんだろう。
まい太郎がテレビを見ながら、何か食っているのを横から手を出してつまみ食いしていると
「ねえ、手洗ってきたら?」
と言われたので改めて手を見れば、血まみれのまま。
手だけ洗って、そのまま、ぶっ倒れるように寝てしまい、翌日の昼過ぎ、トイレに行きたくて目を覚まし、鏡を見たらホクロが増えている。返り血だ。顔も洗わず寝てしまったのだった。
昨日のクジラからのシェア、ニギャックをクルーの人数分に均等に切り分けに海岸まで。
一人当たり10キロ以上の肉とマクタック。今度はその肉を茹でるために、冷凍保存するために、処理をしなくてはならない。

見上げれば、白夜の澄んだ空、目の前には青白い色をした氷原。陸に目をやると、クジラの骨が空に向かって伸びている。
どれも日本では珍しいからとても絵になるように見える。
地元の人間にとっては、普段から見慣れたありふれた光景。

クジラの骨で囲まれた墓地も部外者には珍しいものではあるけれど、卒都婆が立ち並ぶ日本の墓地だって、外国人から見れば珍しいものだと思う。
珍しいからって、ここへ眠る人たちに挨拶もせず墓地内を走り回りながら写真を撮りまくるのは、亡くなった人に対する敬意があるのか疑問に思えてしまう。
自分だって墓地の写真を撮っているけれど、写真を撮る前に、必ず帽子を脱いで挨拶している。ここへ来るたびにここへ眠る友だちたちにも挨拶している。

過酷なで血まみれ脂まみれの労働と後始末。猟が終わった時点で始まる次の猟の準備。時に酒を飲んで(違法です)喧嘩したり、いがみ合ったり。マリファナ吸って(合法です)笑ったり、綺麗ごとばかりではなく、普通に生きている人たちがこの町にはいる。

綺麗なところだけを引っ張り出し、どこかで聞いたような綺麗な言葉を添えてみれば、どんな場所も綺麗な詩的な土地になる。
写真家の人、通りすがりの人の綺麗な写真や、綺麗な文章は、多分この町の、あるいは猟の本質の1割程度しか示していないのではなかろうか。
外側の綺麗な包み紙に惑わされてはいけない。

小さなコミュニティ故、通りすがりの人間はとても目立つ。見慣れない格好をした人がカメラを持ってウロウロしているので尚更だ。
そして、通りすがりの人間は、その場にいなくても目立つのだ。
常に、見られていると思ったほうがいい。
だから、なるべく進んで動くようにしている。
それでもよく
「シンゴ、動け!」
と怒鳴られるが。

自戒を込めて。

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